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クラスター株式会社のソフトウェアエンジニアです。エンジニアリングや読書などについて書いています。

良いビジョンとは何か - ザ・ビジョンを読んだ

以前、1分間顧客サービス という本を読んで、「顧客中心のビジョン」を作ることが、熱狂的なファンを作るために必要と書かれていた。チームを自分で率いている以上、チームがどういう価値を提供するのかを示すようなビジョンは必要だと感じた。

チームのビジョンを立てようとは思ったものの、以下のような疑問が出てきた。

  • 良いビジョンとは何なのか
  • ビジョンをどう伝えるか

これらの疑問を解決する手助けになると良いと思い、「ザ・ビジョン」という本を読んだ。

この本は1分間マネジャーシリーズを書いた、ケン・ブランチャードによって書かれた本である。良いビジョンとはなにか、どうやってそのビジョンを作っていくか、などについて、お馴染みのスタイルである小説形式を用いて教えてくれる。ページ数は200ページ強とそこそこ多いが、小説形式なためすぐ読め、ビジョンに関する知識が得られるので面白かった。


上に書いた疑問に対する答えが一定この本に書かれていたので、今回はその疑問にしたがってブログにまとめておこうと思う。

良いビジョンとはなにか

この本では、説得力あるビジョンを生み出すためには、以下の三つの基本要素を満たしている必要があるとしている。

  • 有意義な目的
  • 明確な価値観
  • 未来のイメージ

それぞれ目的、価値観、未来のイメージとは何か。

目的とは何か

目的とは、その会社やチームの、顧客に対する「なぜ」を語っているものである。

例えばこの本では、ビジョンを作ろうとしている会社は保険業を行っているのだけど、「保険を提供する」というのは、事業の目的ではないとしている。そうではなくて、顧客の視点に立ち、顧客が何を求めているのかを明確に表したものが目的となる。これから考えると、この会社の保険業の目的は「顧客に将来の安心を提供すること」となる。

この話はWhatとWhyの違いなんだろうなと思った。この会社の目的は何ですかと聞かれると、よくWhatのほうを言いがちになってしまう。例えば、自分の会社は保険を提供しているとか、あるWebサービスを提供しているとか。でもそうではなくて、なぜそれを提供しているのかというWhyを、目的としてきちんとビジョンに含める必要があるのだなと思った。


ちなみに、この本を読んだ上で、Qiitaの社長のインタビューに書かれていた内容を読んだら、良いビジョンが作られているんだなーと感じた。

「そもそも、ぼくらがなぜプログラマー向けのサービスをやっているのかというと、『世界の進化を加速させたいから』なんです。そのために自分たちが得意な領域で切り込めるとしたら何かと考えたときに、『ソフトウェア開発の環境を良くする』ということに行き着きました。

http://hrnabi.com/2015/03/11/6001/

「世界の進化を加速させる」が目的で、それを達成するために「ソフトウェア開発の環境を良くする」ことをするとちゃんと書かれている。

明確な価値観

価値観とは、「目的を達成するために、日々どのように行動すればよいか」について示したものとしている。つまりHowが価値観ということだと思う。

価値観がビジョンに必要と言っているのは、おもしろいなーと思った。今日http://tenshoku.mynavi.jp/it-engineer/knowhow/naoya_sushi/06 を読んでいたけど、この中に以下の様な文章が書かれていた。

— naoya:いや、僕は一番ビックリした話が、KPIってあるじゃないですか。あれを決めると、時としてモラルハザードが起こるんですよ。たとえば、売上だけがKPIだってなると、社員はみんな売上を最大化するぞってなって、それこそ画面全部広告にするみたいなことが起こったりする。


これはおそらく会社の目的は決めて、その会社の目的を達成するための指標は決めたはいいものの、ちゃんとした価値観を浸透させなかったために、モラルハザードが起こるんじゃないかと思った。価値観として、「ユーザーを第一とし、ユーザーの体験を損なうようなことはしない」と決めていたら、広告を全面に出すというのはやってはいけないことであるということが共有されるのではないかと思った。

未来のイメージ

未来のイメージとは、最終結果がどうなっていてほしいかを、あいまいではなく、はっきりと示したものである。つまり、会社としてチームとしてサービスとして、どこを目指すかが示されているものである。つまりこれはWhereである。

1分間顧客サービス」 において、「顧客中心のビジョン」と言われていたのは、この未来のイメージを指していると思う。そのため、この本におけるビジョンは「1分間顧客サービス」よりも広い意味でのビジョンと考えられる。


終結果がどうなっていて欲しいかをつくり上げるのは大切なことだと思う。もし何もない状況でサービスを提供しようとすると、サービスを良くするために、何をすればよいかがよく分からなくなることが多い。一方で、最終的な理想型を示すことが出来れば、現実との差分をはっきりと意識することができるため、その差分を埋めていくということでサービスを理想に近づけるという事ができるようになる。

これがうまくいった例としては、NASAアポロ計画がある。NASAは、「1960年代中に人類を月に立たせる」という具体的かつ強烈なイメージをまず作ったと言われている。そのため、すべての職員がこの場所にむかって進んだため、驚異的な技術進歩が行われたらしい。

他にもGoogleは「Google の使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすることです。」と明示的にいっていて、これも明確な未来のイメージになっていると思う。


もし自分がビジョンを作るときには、この明確な未来のイメージが立てられているかを一番強く意識したいと感じた。

良いビジョンのまとめ

まとめると、良いビジョンはどこに向かうか(Where)、なぜそこに向かうか(Why)、どうやってそこに向かうか(How)が明確に具体的に示されているものだと感じた。特に具体的にというのがポイントだと思う。他の会社のミッションなども参考にしつつ、ビジョンをきちんと作っていきたい。

ビジョンをどう伝えるか

また、ビジョンを作ったとしても、どうやってそれを伝えれば良いのかというのが疑問に思った。ビジョンをただ作ったとしても、それに対してメンバーが共感をしていないならば、それは形骸化したビジョンであると感じるからだ。

この本の中では

ビジョンづくりは現在進行形のプロセスであり、たえずそれについて話し合っていく必要がある

と書かれている。つまりビジョンというのは作ったら終わりというものではなくて、それを前提としてたえずメンバーとそれについて話し合い、ビジョンを現在に適応できる形に変えていきながら伝えていくということらしい。あんまり納得はいかないけど、ただ決めた人が言ってるだけじゃだめだよなーとは思った。

まとめ

「ザ・ビジョン」を読んで、良いビジョンとはなにか、ビジョンをどう伝えるかに焦点を絞り、まとめてみた。これを参考にチームのミッションやビジョンを作っていきたいと良さそう。

さらにビジョンについて知るために、次は「ビジョナリーカンパニー」を読みたい。

「アドレナリンジャンキー」読んだ

読んだ。

この本はソフトウェアのプロジェクトにおけるパターンについて、いろいろ教えてくれる本。この本を読んで、あーあるあると思いながら読めると良い本なのだろうと思う。あんまり進め方が良いとは言えないプロジェクトに関わっていたり、炎上気味のプロジェクトに関わっている人には面白く読めると思う。逆に僕はそれぞれのパターンを読んでも、なるほどとは思えなかったので、そこまで面白くはなかった。


この本の中で一つ面白かったのは「マニャーナ」というパターン。説明文には以下のように書かれている。

すぐに動き始め動き続けなければ仕事が片付かない。そう認識できる時間枠を超えて期日が設定されると、切迫感がなくなり、行動しようとするモチベーションがうせる。

大抵の人の場合、切迫感を感じる期日というのは30日から90日の間らしい。これを超えると、いつかやれば良いと思ってしまい、すぐに行動するモチベーションがなくなってしまう。そこで大規模プロジェクトの場合、この期間に区切って、具体的な成果物を仕上げるように作業指示を出すと良いようだ。

この話から考えてみると、これがマイルストーンスクラムにおけるイテレーションの役割なのかなと思う。何らかの開発フローにはその開発フローになった元となっている基礎理論みたいなのがありそうなので、もし開発フローを改善するときはそのへんについて深く知っておいたほうが良さそう。そうでないとただフローを導入しただけで根本解決はできていないということが起きうると思った。


トム・デマルコの本、今回はちょっと合わなかったんだけど、前ピープルウェア読んで面白かったので、他の本も読んでみたいと思う。

評価制度の目的とは何か考えてみる

最近どのような人事評価制度が良いものなのか考えている。どういうシステムが良いかを考えるためには、まずは人事評価制度はどういう目的で行われるのかを考える必要があると思い、まずは人事評価制度は何なのかについて自分なりに考えてみたいと思う。

今のところいくつかの本を読んで、自分の意見をまとめているという段階なので、中身の正確さは保証できない。間違っているところなどあれば指摘してもらえると。

人事評価制度の目的は何か

「そうか、君は課長になったのか。」「マネジメントとは何か」「1分間マネジャーシリーズ」など、いくつかの書籍を読んだ所、人事評価制度はマネジメントという文脈で非常に重要なポジションであることが見てとれた。

これらの書籍を見る限り、以下の様なものが人事評価制度の目的となるのではないかと考えている。

  • 報酬による外的モチベーションの管理
  • 社員教育の促進
  • 会社の方向性を社員に伝搬させる

報酬によるモチベーションの管理

人事評価制度と聞くと真っ先に目的として浮かぶのが、報酬を適切に決めるための仕組みというもの。なぜ報酬を適切に決めないといけないかというと、社員の業績や努力と報酬が適切に結びつけることで、モチベーションを向上させることができるためだ*1

つまり、頑張れば頑張るほど評価されるという仕組みがあることによるモチベーション管理が、評価システムの一つの目的ではないかと考えている。


この目的を満たすためには、以下の様な要素が求められそう。

  • 努力や業績とは何かを規定できている
  • 努力や業績が、評価軸によって報酬と明確に対応していて、それが社員に伝わっている

社員教育の促進

人事評価制度の目的の一つとして、社員教育を促進するというのもありうる。


評価制度には評価軸というものがある。評価軸が適切に報酬に結びついているとすると、社員はそれから何を頑張ればよいかという方向性を知ることが出来る。

社内でこの職種がこのくらいの時期にあるべき姿を規定できていて、それが評価軸に反映されれば、社員はそれを短期的な自分の目標とすることが出来る。目標が決まれば、自分自身が何をすればよいかが明確になるので、それに向けて学習するなどのことができる。

また評価軸に対して、適切に評価点を付けてフィードバックすることにより、当人に今自分は何が会社から評価されているか、逆に何が課題なのかを適切に伝えることが出来る。これにより、当人の強みや課題を明確にすることができるので、それも教育に活かせる。


このような教育的な側面を担保するためには、例えば以下の様な要素が求められそうだ。

  • 会社として、どのような人材になって欲しいかが明確である
  • なって欲しい人材像が適切に評価軸に反映されている
  • 評価軸での評価が適切に被評価者にフィードバックされる


最近見た記事の中では、ペパボや糸井重里事務所とかがどのような人材になって欲しいか明確になってるなーと思ったので、参考にしたい。

http://blog.kentarok.org/entry/2014/04/27/220231
東京糸井重里事務所の経理チームと総務人事チームが乗組員を募集します- ほぼ日刊イトイ新聞

会社の方向性を社員に伝搬させる

評価制度は、会社の方向性を社員に伝搬させるための仕組みにもなりうる。

「爆速経営 新生ヤフーの500日」によると、Yahooは会社をモバイルの方向に転換させるために、まず評価軸としてモバイルに関するものを作っている。他にも極端な例だけどぐるなびが会社のビジネスモデルを方向転換させるために、全員をヒラ社員に戻して、新しい指標で評価するといったことをしていたりする。

評価軸は報酬ともつながってくるはずなので、このように評価軸を調整することで、会社の方向性を社員レベルに伝搬させることも出来る。技術の会社にしたければ技術方面に評価軸を調整することもできるし、今期は売上を重要視したいならそのあたりの評価軸を調整するということも出来る。


この側面のためには、例えば以下の様な要素が求められそうである。

  • 会社として、どのような方向に行きたいかが明確である
  • 会社の方向性が評価軸に適切に反映されている
  • 評価軸と報酬の関係が明確であり、評価軸が重要であると社員に伝わっている

まとめ

評価制度は単に報酬を決めるためと思われがちだと思う。だけど、会社がある程度以上の規模になってきたときには教育やメッセージの目的もあるように感じる。

今のところいくつかの本を参考に目的を考えてみただけなので、他の目的もありそうに思える。もう少し知識を深めて、どのように評価制度を利用できるか考えてみたい。

*1:もちろんこれはモチベーションの一側面でしかなく、報酬を渡せばモチベーションが上がるという単純なものではない